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[#33964] 有機リン系農薬の曝露で、注意欠陥多動性障害のリスク上昇?? ヒゲ達磨 10/5/24(月) 12:22 [未読]
[#33965] 有機リン系農薬の ヒゲ達磨 10/5/24(月) 12:23 [未読]
[#33966] Re:有機リン系農薬 研究結果 ヒゲ達磨 10/5/24(月) 12:24 [未読]
[#33967] Re:有機リン系農薬 判ること、対策 ヒゲ達磨 10/5/24(月) 12:27 [未読]
[#33968] Re:有機リン系農薬 判ること、対策2 ヒゲ達磨 10/5/24(月) 12:28 [未読]

[#33964] 有機リン系農薬の曝露で、注意欠陥多動性障害のリスク上昇??
 ヒゲ達磨  - 10/5/24(月) 12:22 -

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   18日の朝日新聞に=農薬摂取で「子の注意欠陥・多動性障害増える」 米研究=と農薬とADHDの論文 の紹介記事が載っています。

【ワシントン=勝田敏彦】米ハーバード大などの研究チームが、有機リン系の農薬を低濃度でも摂取した子どもは注意欠陥・多動性障害(ADHD)になりやすいとの研究結果をまとめた。17日発行の米小児学会誌に発表した。

 研究チームは米国の8〜15歳の子ども1139人の尿の成分を分析、親と面接してADHDの診断基準に当てはまるかどうか調べた。

 分析の結果、検出限界ぎりぎりの濃度でも農薬成分の代謝物が尿から見つかった子は、検出されなかった子よりもADHDと診断される可能性が1.93倍になった。

 これまでの研究は、たとえば農村地帯に住む農薬の摂取量が多い人らを対象にしたものだった。チームは論文で「今回のように米国で普通に摂取されているようなレベルでも、農薬成分がADHDの増加につながっている可能性がある」としている。

 農薬成分は農作物に残留したりして子どもの体内に入ったと考えられている。チームのマーク・ワイスコプさんはロイター通信の取材に「野菜や果物は食べる前によく洗ったほうがよい」と話した。

 発達過程にある子どもの脳などは、農薬など神経系に障害を与える可能性がある化学物質に特に弱いと考えられている。農林水産省によると、有機リン系の農薬は日本でも使われている。

http://www.asahi.com/science/update/0518/TKY201005180194.html


より専門的な解説は
疫学批評(東北大学大学院教授 坪野吉孝氏)の5月20日にあります。
有機リン系農薬の曝露で、注意欠陥多動性障害のリスク上昇。
http://blog.livedoor.jp/ytsubono/archives/51812038.html

「米国から無作為に抽出した8−15歳の小児1,139人を調べたところ、有機リン系農薬の代謝産物の尿中濃度が10倍高いと、注意欠陥多動性障害(ADHD)のリスクが1.55倍高かった。」

有機リン系農薬のことを10年以上追いかけてきたので、その解説に足りないと思える点を加えてまとめてみました。(続く)

[#33965] 有機リン系農薬の
 ヒゲ達磨  - 10/5/24(月) 12:23 -

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   背景・経過
米国では、91年の湾岸戦争の帰還兵に有機リン中毒が多く、野営地にまいた殺虫剤などが疑われました。このため政府主導で有機リン中毒の研究が進み、有機リン系殺虫剤の規制の見直しが行われました。
また1980年頃から、子どもの鉛や水銀曝露、学校環境におけるアスベスト対策など、環境中の化学物質が子どもに与える影響に対し社会の関心が向けられていました。そして1993 年に米国科学アカデミーが報告書Pesticides in food of infant and children(子どもの食物中の殺虫剤)において、子どもの脆弱性を考慮した農薬安全基準設定の必要性を勧告しました。

それらが1996年8月に制定された食品品質保護法(FQPA)では、同じ作用性の農薬はまとめて評価を行うことや子供等には厳しく成人の10分の1の基準値を設けることが導入されています。その新たな視点での再評価は、有機りん系、カーバメート系薬剤から始まりました。両剤とも、神経毒。運動神経や交感神経などで、神経末端のシナプスの伝達物質にアセチルコリンを利用するコリン作動性神経で毒として働く。神経の末端から分泌されたアセチルコリンが他の神経細胞や筋肉などにたどり着きます。それを受けとめる受容体が、神経細胞などからとび出しています。その受容体と結合すると、神経細胞や筋肉細胞に刺激が伝わり、指が曲がったり、心臓が拡がって血液がとり込まれたり、唾液が分泌されたりします。その後コリンエステラーゼという酵素によって、アセチルコリンは分解され、刺激は解除されます。

 ところが有機リンは酵素によって酸化されると、カーバメート系はそのままでコリンエステラーゼと結合してしまいます。それで受容体についたアセチルコリンは分解されなくなります。刺激が解除されず、神経細胞や筋肉などは興奮が持続します。つまり、過剰刺激状態になってしまい、神経伝達が正常に働かなくなります。
 このコリン作動性神経は昆虫(害虫)も持っているし、哺乳類(人)もあります。ただ、昆虫と哺乳類では解毒能力の違いから、そうした神経毒性を表す量が違います。昆虫には、有機リンが酸化し毒性が顕われる前に分解・無害化する酵素の働きが弱く、人間など温血動物では活性が高いのです。つまり害虫が神経伝達が正常に働かなくなり死んでしまう濃度、摂取量でも、人間では酵素がほとんど分解するために死なないという選択毒性があり、殺虫剤として多種類開発され広く使われるようになりました。

米国で知能的な発育が遅れた子供の施設に有機リン剤(クロルピリホス)を使うと、知能テストのような検査では分からないが、高度なメンタルテストで発見される知能の発育の際立った遅れ・異常を見つけた研究が公表されています。米国で1998年から大気汚染、タバコ、アレルゲンや殺虫剤に暴露される妊婦の健康状態を多年度に渡って調査する研究計画が実施されていて、2004年3月25日に公表されたその結果では、子宮にいる時に大量の殺虫剤に曝された新生児は体重不足になる、平均で約170g(6オンス)軽いことが判りました。これは、タバコの喫煙の影響よりも大きいのです。

農村部などより高いレベルの有機リン系剤汚染にさらされた子どもたちに焦点をあてた疫学的研究が行われ、そうした高いレベルでは、出生前の(つまり胎内での)曝露によって、広汎性発達障害、2〜3歳時点での知的な発達の遅れがあらわれるリスクが増える。出生後の曝露では、問題行動、短期記憶や運動能力の低下、反応速度の遅れを伴なうなどの結果が得られました。
有機リン系殺虫剤の中毒では、不安、興奮、集中力欠如、持続力欠如、多動といった中枢神経性の中毒症状が、コリンエステラーゼ阻害によっておきます。こうした行動症状はADHDに共通するので、コリンエステラーゼ阻害によるコリン作動性シグナル伝達の途断によって、ADHD が発症するのではないか?とかADHDに着目した仮説などがとなえられました。
より低いレベルでの曝露によって、神経発達の上でのリスクが、ADHDリスクが高まるのかどうか。それを検討する、というのが、この研究の趣旨です。

[#33966] Re:有機リン系農薬 研究結果
 ヒゲ達磨  - 10/5/24(月) 12:24 -

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   研究結果

今回の研究は、2000年から2004年のNational Health and Nutrition Examination Survey (NHANES)のデータを利用して平均的な曝露レベルの集団として無作為に8歳から15歳までの1,139名を抽出しました。

有機リン系剤は、体内で加水分解されジアルキルリン酸が生成します。それで、この物質が特異的な暴露指標とされています。これの尿中の濃度を調べました。その結果、ほとんど(93.8%) で検出され、米国では有機リン系剤にほとんどの子が曝されていることがわかります。

米国では、ジアルキルリン酸を2群・6種に細分して検出しています。(日本は2群、4種)
有機リン農薬とその尿中代謝物の一覧表をみると、有機リン系剤は綺麗に二分されます。これは、有機リン系剤の基本構造が、ジエチルリン酸あるいはジメチルリン酸(あるいはジエチルチオリン酸、ジメチルチオリン酸)が各種フェノール類と脱水結合したものだからです。http://www.maroon.dti.ne.jp/bandaikw/news/pestcide/USA/CDCnat_rep_human_exp.htm

ジメチルアルキルリン酸の群
ジメチルリン酸(DMP、日本でも検出対象)
ジメチルチオリン酸(DMTP、日本でも検出対象)
ジメチルジチオリン酸

ジエチルアルキルリン酸の群
ジエチルリン酸 (DEP、日本でも検出対象)
ジエチルチオリン酸 (DETP、日本でも検出対象)
ジエチルジチオリン酸

そして、今回の研究ではジアルキルリン酸の検出された全体の集団、つまり有機リン系剤に曝されている事では、ADHDのリスク上昇は検出されませんでした。細分してみるとジエチルアルキルリン酸でも、リスク上昇は検出されませんでした。ジメチルアルキルリン酸の尿中濃度が10倍になると(およそ下位25%から上位25%の差に相当)、注意欠陥多動性障害と診断されるリスクが1.55倍と高かった。その中でも、最も量の多いジメチルチオリン酸でみると、尿中濃度が検出限界未満と比べて、検出限界以上で中央値より高い上位半分では1.93倍のリスク上昇があった。

「著者らは研究の限界として、尿を1回しか採取していないため有機リンの長期曝露を反映していない可能性がある点や、有機リンの代謝産物の測定と注意欠陥多動性障害の診断を同時に行なっているため、注意欠陥多動性障害の小児が有機リン系農薬に多く曝露するような行動をしている可能性を排除できない点などを挙げている。その上で、有機リンの曝露レベルごとに将来の注意欠陥多動性障害の発生率を比較する追跡調査が今後必要だと考察している。」確かに追試や追跡調査が必要です。

[#33967] Re:有機リン系農薬 判ること、対策
 ヒゲ達磨  - 10/5/24(月) 12:27 -

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   この研究は、ADHDの症状が顕れるのにジメチルリン酸、ジメチルチオリン酸を原料とする有機リン系剤が「何らかの関係があることが示唆される」ということであり、「それが原因である」ということではありません。例えば、この有機リン系剤が引き金となって、遺伝的な多動・不注意傾向がADHDとして顕在化されるのかもしれません。「多動・不注意傾向が遺伝的に低い子の場合、子どもの問題行動の遺伝的性向が親のネガティブな養育行動を引き出しているのに対して、多動・不注意傾向が遺伝的に高い子の場合、親のネガティヴな養育行動が共有環境としての引き金となって子どもの問題行動をもたしていることが示された。」(1600組を超す乳児双生児の2005年から4年半にわたって縦断研究した首都圏ふたごプロジェクト(ToTCoP)の結果)この親のネガティヴな養育行動と同じように、この有機リン系剤が引き金となって、遺伝的な多動・不注意傾向をより顕在化させるのかもしれません。

有機リン系殺虫剤の中毒では、不安、興奮、集中力欠如、持続力欠如、多動といった中枢神経性の中毒症状が、コリンエステラーゼ阻害によっておきます。こうしたADHDに共通する行動症状に着目して、コリンエステラーゼ阻害によるコリン作動性シグナル伝達の途断によって、ADHD が発症するのではないかという方がいます。
http://ovminfo.com/archives/cat_10/_adhd/

コリン作動性シグナル伝達の途断によってADHD が発症するなら、ジアルキルリン酸の検出された全体集団やジエチルアルキルリン酸検出の部分集団でもADHDのリスク上昇が検出されなければなりません。しかしこの研究では検出されていませんから、この研究からはコリンエステラーゼ阻害が原因とみるのは難しい。

「アセチルコリンエステラーゼ(AChE)は、殺虫剤あるいは化学兵器として重要な約80種の有機リン(OP)化合物による暴露をうける可能性のある、人体に数百種存在するセリン加水分解酵素の1 つである。有機リン化合物の毒性は、最近まで、専らAChE 阻害に基づいて解釈されていた。各々のセリン加水分解酵素は特異的な機能をもつと想定され、また、それぞれの有機リン化合物には独特な阻害特性があることが提唱されている。」(平成20 年度食品安全確保総合調査報告書、172ページ)
http://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=cho20090040001&fileId=001

「酵素の阻害といえば、中毒の原因としてアセチルコリンエステラーゼだけが問題にされてきた。ところが最近の米欧の研究で、それ以外に、脳機能の調整に欠かせない脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)など数種類の酵素の阻害が実験で確認され、有機リンの神経毒性の仕組みがどんどん解明されてきた」(石川哲、北里大学)
http://alter.gr.jp/Preview.aspx?id=592&cls=
ですから、ジメチルアルキルリン酸の検出される有機リン系剤の独特な阻害特性に着目する方が良いと思います。こうしたメカニズムは、いつ解明できるか、有機リン系剤の特定が何時できるかはわかりません。ですから、当面採れる事はジメチルアルキルリン酸を代謝産物とする有機リン系剤に力点を置いた暴露低減対策です。

[#33968] Re:有機リン系農薬 判ること、対策2
 ヒゲ達磨  - 10/5/24(月) 12:28 -

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   有機リン系剤に限らず、農薬暴露は3つの経路があります。一つは、残留農薬。一つは、畑などからの環境汚染による飲み水、大気。一つは、家庭用殺虫剤など家庭での使用による暴露です。日本の農薬規制では、この全体を考えて暴露量をコントロールする仕組みになっていません。その最大の理由は、残留農薬は農水省・厚労省、環境関係は環境省・厚労省、家庭用薬剤は厚労省、経済産業省と縦割り行政。一番遅れているのが、家庭での使用による暴露です。

この点の規制が米国では90年代半ばから進められています。シロアリ駆除に使われていたクロルピリホス。1984年から90年の間にアメリカでの農薬110番に苦情のもっとも多かったのはクロルピリホスの158件でした。米国では274件の健康被害訴訟が起こされています。
 96年11月、ニューヨークで開かれたアメリカ公衆衛生学会で、このクロルピリホスと人の先天異常(頭、顔、眼、生殖器など)の関係が報告され、研究者はEPA(環境保護庁)に対して使用規制と製品に先天異常の恐れがあるとの表示をすることを求めました。
 97年1月にEPAと製造メーカーのダウ・ケミカル社は規制、有機リン系殺虫剤クロルピリホスのノミ殺虫剤やペット用薬剤、塗料添加剤などの販売自粛など10項目の自主規制に合意しています。そして2000年6月8日にEPA米国環境保護庁は家屋内や庭での使用を法的に禁止。同年12月に家庭の芝生と庭の有害生物駆除のために、最も広く使用される有機リン系剤ダイアジノンの家庭使用の禁止と、農業用途の制限をEPAと製造メーカーが合意。2005年1月に家屋庭用ダイアジノン販売が法的禁止。などなど
こうした規制の進展強化で、米国では暴露の主な経路が残留農薬ルートです。日本はまだそうなっていません。


有機リン系薬剤は家庭では、衛生害虫・不快害虫への殺虫剤と庭などでの園芸用の殺虫剤で使用されてます。
http://www.safe.nite.go.jp/shiryo/product/biocide/biocide2.html
(有機リン系難燃剤・可塑剤として主に繊維製品やプラスチック製品に使用されている。その揮発により室内空気中で 10 種類の有機リン系難燃剤・可塑剤が検出されたという報告もある。)

園芸用の殺虫剤は、先に一覧表を見て有効成分から選ぶことで減らせると思います。

蚊やハエ、ダニなどへの殺虫剤では、要注意と思うのはダニ防除です。

JIS(日本工業規格)では、畳床については「ダニ、その他の害虫が発生しないように、適切な防虫処理をしなけらばならない。」として、防虫処理が義務づけられています。ワラを一切使わない、発泡ポリスチレンまたはインシュレーションボード(チップ化した木材を蒸煮解繊し、耐水剤を添加した後、抄造し、連続式乾燥装置で乾燥させたもの)のみを畳床に使った畳以外は、防虫処理が義務づけられています。

フェンチオン、フェニトロチオン(スミチオン)など有機リン系剤を染み込ませた防虫加工紙で包み込むやり方が一般的です。フェンチオン、フェニトロチオンの尿中代謝物はジメチルリン酸とジメチルチオリン酸。

東京都が調査では、防虫処理した新品の畳を入れた部屋の空気には、最高で1m3当たり7マイクログラムの殺虫剤成分が漂っていました。(室温30℃、畳の上10cmで採取。なお、1マイクログラム=100万分の1グラム。)農薬空中散布の安全基準は2マイクログラムですから、その3.5倍。防虫加工紙は、半年で発散が半減する仕様だそうですから、約1年で農薬空中散布程度の濃度になります。

やがて、発散しきってダニ防除効果がなくなります。高気密の家屋は、冬の結露でわかるように室内に湿気をためやすい。人間が暮らすから、餌には困りません。湿気さえあれば、繁殖します。そうなると、掃除などから取り掛かり、最終的には勧められるているのは
「畳を上げて、フェニトロチオンなどの有機リン系の油剤を噴霧します。」
http://www.city.toyota.aichi.jp/division/af00/af07/1193555_7118.html

もう一つは、ハエ・蚊・ゴキブリを殺虫!というバポナやパナプレートです。この有効成分はジクロルボス(DDVP)、尿中代謝物はジメチルリン酸。
このジクロルボスがプラスチック板から蒸散して6〜7畳の広さに1個吊すだけで、2〜3ヶ月の長期間にわたって発散して効き目を顕します。東京都が実施した実験では、6畳程度の部屋につり下げて、21日間の濃度を測定。その結果、一日そこにいたとして呼吸による摂取量が、世界保健機関(WHO)の示す1日許容量の、子供はすべての日で十倍以上(28―10倍)大人も13―3・4倍です。

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