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私は思春期の頃から男の髭面や胸毛等について強い嫌悪感を抱いていました。さらにその後も、高収入の為の長時間労働、飲酒喫煙、賭事といった男の甲斐性といわれる行動に対しても、自分には真平御免としか思うばかりでした。他方では、婦人用衣料の色彩生地及形態については、何とも不可解にして不快であり、殊に化粧品の匂いには殆ど我慢できません。そのうえ私は、女性に対して保護者にして同時に奴隷でもあるという男の役割を演ずるのは元来苦手であり、数年前迄は二三時間以上忍耐が続いたことがありませんでした。十代末期から何年かの間は、自分を中性化若しくは無性化したいという願望を時々強く抱くことがありましたが、今顧みるならば、恐らくは成熟拒否といったような症候に過ぎなかったようにも思われます。ところで、今時分の服飾の中性化と世代差の減少、例えばTシャツ(私は一枚も所有しておりませんが)とジーンズ姿の六十五歳の男女が通常の光景になりつつあるというのは、これと関係があるものなのでしょうか。しかしながら、今なお男女を問わず人に近づかれると狼狽するという私の習性は変わりそうもありません。なお二人の友人(女)の述懐よると、親しくなる以前はいつも回避行動をとっていたし、自分に近づくな、自分は誰も要らないと目が叫んでいたそうです。
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