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>求刑より長い判決を受けることなんてよくありますよ。
貴兄は今まで何件くらい裁判例を読みましたか?
求刑より重い判決が出た事例数とパーセンテージを教えてください。
私が知る限りでは、「よく」はないですよ。「まれ」です。
>私が「障害者差別主義者」なのだとしたら、
>世の中の多くの人たちがそうですよ。
この判決の問題点は、まさにその点にあります。
世の中の多くの人たちの「市民感情」を裁判に取り入れようとした司法制度改革そのものに問題があるわけです。裁判員裁判制度だけでなく、現行の検察審査会制度もそうです。「コイツならやりかねない」「こんな危ないヤツは一生刑務所から出すな」そういう単純な市民感情を、本来専門知識と経験豊富な裁判官が法と証拠に基づいて冷静に審理すべき裁判に取り入れた結果、出た判決。つまり、「アスペルガーは一生刑務所から出すな」それがこの判決なわけです。
動機不明の凶悪犯罪(特に未成年の)に関する新聞報道において、有識者のコメントとしてアスペルガー症候群との関連性を何度も掲載されたことにより、アスペルガーという名前がひとり歩きして、事実とはまったく異なるアスペルガー症候群のネガティブなイメージが形成されてしまい、「アスペルガーは凶暴なモンスター」という誤解が市民感情に浸透してしまった。その結果が裁判員裁判によって具現化された。それがこの判決なんですよ。
この事件の被害者は被告人の長姉なんですよ。
つまり、被害者の遺族=被告人(加害者)の家族・親族。
小学5年生頃から不登校になった被告人を、家族の中でもっとも心配し、気遣い、結婚後も引きこもりの弟を訪ねてこまめに世話をし、自立を促し、おそらくは家族の中で唯一、被告人を身内として愛情をもって接してきたのが、被害者となった長姉だったのでしょう。だからこそ、一般市民の感情として、その姉を深さ7cmも刺して殺した被告人の罪は大きい、許せない、と裁判員も判事も判断したわけです。深さ7cmも刺すのは大人の男でも全力を必要とするはずです。それだけ、被告人の殺意は強固だったとの判断も妥当だと思います。が、しかし、「社会に受け皿がない」という理由は、事実とは異なる。事実は、被告人の家族が受け皿となることを拒絶し、この困り者の身内を刑務所から出さないで欲しいと願ったのでしょう。(まあ、これは身内であるがゆえの素直な感情と言えるとは思いますが)
ところで、刑罰の存在理由を貴兄はご存知ですか?
1.「被害者と被害者遺族に代わって国家が復讐する」
「自力救済の禁止」の原則の裏面として、特に死刑の存続理由として主張されているのがこの理由です。簡単に言うと、国家が仇討ちをするから私的復讐は許さない、という理由ですね。
2.「再犯の可能性が高い犯罪者を刑務所に隔離して社会秩序を保つ」
これは貴兄が考えるとおり、社会の保安維持のために、特に懲役刑の存在理由として主張されています。
3.「一定期間犯罪者を矯正するために社会から隔離して更生させる」
これも懲役刑の存在理由です。少年犯罪ではもっとも重視されます。
他にもありますが省略します。興味があれば自分で調べてください。
この判決が問題とされるのは、上記の2を主たる理由として、アスペルガー症候群という特定の発達障害を定形的にあてはめたからです。わかりますか?私が説明している意味が。この判決理由の論旨からすると、「アスペルガーの犯罪者は、すべて、許される限り長く刑務所に閉じ込めておくのが社会秩序を保つために必要である」という結論になるんですよ。それが、問題だと言っているわけです。
逆に考えてみましょうか。
被告人は30年間、自宅に引きこもり状態にあったが、家族に監禁されていたわけではなかった。もし、被告人が、「許される限り長く刑務所に入れておくことが社会秩序の安定に資する」ほど、生来凶暴で危険な性格(判決理由ではこれをアスペルガー症候群の影響であると認定)であったなら、30年もの長い期間に何もなかったというのは、おかしいとは思いませんか?
被告人は自分の意思で自由に外出ができたわけですから、いつでも家の外に出て、凶悪な犯罪を繰り返すこともできたはずです。もし、そういう事実や犯罪歴があるのであれば、この判決の正当性を誰も疑わないでしょう。その点が判決理由では何も述べられていない。すべてはアスペルガー症候群という特定の障害によるものとして片付けられている。それが問題だと私は考えているわけです。
私の意見はこれで終わりです。
この判決について、ひとりでも多くの人が、少しでもよいから時間をさいて考えてみてくださることを期待いたします。
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