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福祉の専門職や福祉の現場で働いている人たちと直接意見を交わす機会を持つようになってから10年になります。そこで感じるのは、福祉の専門職の人ですら、驚くほどアスペルガーに関する知識がなく、アスペルガーに対する関心もなく、福祉の対象とみなしていないばかりか、アスペルガーに対する誤解と偏見に満ちているという事実です。この10年間でアスペルガーに関する著作が数多く出版され、NHKの福祉番組でも取り上げられているにもかかわらず、10年前も現在も、私が知る限りこの状況はほとんど変わっていません。
福祉関係者ですら、そういう状態ですから、一般の人がアスペルガーに対して抱いている誤解と偏見がどれほどのものかは想像に難くありません。前回は大阪地裁判決に関して一方的に批判した文章を投稿してしまい、皆さんにも不愉快な思いをさせてしまったことを深く反省しています。しかし、あの「識まま」という人が特別非常識な人というわけではなく、あのような意見を持つ人のほうが圧倒的に多いというのが実情だと思います。アスペルガーに関する知識がない人に、アスペルガーの人が抱えている深刻な問題や悩みを理解させるのは、本当にむつかしいのです。
アスペルガーに対する正しい理解がなされず福祉政策が進まない理由のひとつは、自治体の福祉政策も福祉の現場も、緊急の課題として年々増え続ける認知症高齢者の問題にかかりきりになっていて、慢性的な予算不足と人手不足の中で、アスペルガーへの対策意識がまったくないか、あっても優先順位の一番下におかれているという事実があります。
もうひとつの理由は、実際にアスペルガーの人に会って話をしてみると、特に知的能力において平均以上に高く優秀な人が少なくないという事実にあります。
福祉についての既成概念は、社会人として必要な能力に劣っている部分があって自立できない人をサポートするということですが、経験を積んだベテランの福祉専門員でも、アスペルガーの人が抱えている対人関係の悩みや問題の深刻さを理解してどのようなサポートが必要なのかを判断することは容易ではありません。これは、最低限度の生活保障を基準にしてきた福祉の既成概念では、アスペルガーの人が抱える深刻な問題を解決できないからです。
福祉の既成概念では、対人関係の能力不足ゆえに学校や職場で孤立して非常に深刻な状態にあるにもかかわらず、学業成績や事務能力では平均かそれ以上に優秀な能力を発揮しているアスペルガーの人に対して、本当にサポートが必要なのか?という疑問を生じさせます。
しかし、人間は、衣食住が足りればそれで幸福になれるという単純な存在ではありません。アスペルガーの人は知性において劣らないだけに、友好な人間関係の構築や社会貢献への欲求の充足など精神面でのケアとサポートが必要とされるのです。
まず、福祉の既成概念を変えなければ、アスペルガーへの正しい理解とアスペルガーの人が抱える様々な問題の解決に向けての有効な対策は打ち出せない、というのが10年もかかってようやくわかってきたことです。アスペルガーの人が心地よく暮らせる社会を実現するまで、あと何年、何十年かかるかわかりませんが、あきらめないつもりです。
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