Web標準技術で本が作れるということ、
あるいはWebと本の融合へ
Web × EPUB

2014-06-14 <htmlday>

村上真雄 (@MurakamiShinyu)
AH Formatter組版エンジン開発者／アンテナハウス／W3C CSSWG

EPUBとは何か？

EPUB = 電子書籍の標準フォーマット
中身は、(X)HTML + CSS
それにメタデータを加えてパッケージ（ZIP）にしたもの
EPUBファイルをZIP解凍すると、(X)HTML ファイルなど見れます。
（ただしDRMがかかってるものは…）
Amazon の Kindle 本も、EPUB と基本的に同じようなもの

つまり、Web標準技術（HTMLやCSS）で、
本（電子書籍）が作られるということ

HTML で本の内容
CSS で本のレイアウト（縦書きとかも）

縦書きとか

日本語の本の多くは縦書きです
EPUBでは、CSSで縦書きを指定できます
```
html {
  -epub-writing-mode: vertical-rl;
}
```
CSS縦書き仕様（CSS Writing Modes）は、W3C で標準化作業中なので、EPUB3.0 仕様には -epub- プレフィックス付きで採用
WebKit などレンダリングエンジンで実装され、縦書きの EPUB 電子書籍が実現

W3C「日本語組版処理の要件」(JLReq)と、関連CSS仕様

W3C は、世界中の言語のテキストレイアウト（組版処理）の要求を Web 標準仕様に入れようとしてます
その一環として、「日本語組版処理の要件」(JLReq = Requirements for Japanese Text Layout) というW3C文書がまとめられました。
EPUB 仕様に取り入れられた縦書きはじめ日本語組版に関係する CSS 仕様（Writing Modes, Text, Text Decoration, Ruby など）標準化が進んだのはその成果。まだ課題は多いけど。

世界中の言語で、Webも電子書籍も、
もっと美しく読みやすく！

W3C では「日本語組版処理の要件」(JLReq)に続いて、
- インド系組版のための作業部会があったり
- ハングル組版処理の要件(KLReq) や
- 欧文組版処理の要件(LatinReq) がまとめられてます。
今後、いろいろな組版処理に対応するCSS仕様の標準化と実装が進んで、Webも電子書籍も、今よりもっと美しく読みやすくなると期待。

Web・電子書籍・雑誌もデジタル教科書も…

これからの出版の中心は、間違いなく電子媒体になっていくでしょう
Web・電子書籍・雑誌もデジタル教科書も、HTML5 & CSS3 (& JavaScript, etc.)で
CSS仕様と実装の進化が欠かせない！いろいろやることが…

そして、紙の本の組版も HTML + CSS で

これから、HTML+CSS で（電子書籍だけでなく）紙の本もできることが重要になります。

今までの一般的な本の作り方

紙の本をまず作る。インデザインなどDTPソフトウェアを使用。
紙に印刷された結果が良ければOKということで、コンテンツデータの再利用性まで考慮されてないことが多い。
それを電子書籍化するというときには、DTPデータからテキストデータを取り出して、手作業でいろいろ直して、タグをつけてXHTMLにして…という作業が。
これでは非効率だし、紙と電子を同時に出版したりできない

これからの本の作り方：ワンソース・マルチユース

まず(X)HTMLで本の内容を完成させる
- 原稿入力は、それぞれやりやすい方法・ツールで、目的物として(X)HTMLになればよい
- 出版物の種類によって（例：辞書など複雑な構造のもの）は専用のXML形式でオーサリング
EPUB用のスタイルシートやメタデータとあわせればEPUB版電子書籍が完成。Kindle版も同様。
紙の本の組版のためのスタイルシートを使ってレンダリング=PDF出力。印刷して紙の本が完成

ページ媒体用CSS仕様対応の組版エンジンの例

Antenna House Formatter 私ども（アンテナハウス）が開発してるのがこれです。米オライリー社が採用し、オライリー本の多くはこれで組版されてます（ただし日本語のオライリー本は今のところ違う）。
Prince（YesLogic社）。米アシェット社で採用されて、全米ベストセラー本なども今はかなりこれで作られてるそうです。
BookJSなどのJavaScriptライブラリ。いまのWebブラウザのCSS実装では不十分なページの組版の機能をJavaScriptで実現

本の組版のためのCSS仕様の標準化とWebブラウザでの実装も進むこと期待

電子書籍や雑誌で高度なページレイアウトが実現されて、将来のEPUB仕様に反映されるように
Webでも電子書籍でも、スクロールとページ方式の両方の読み方を切り替えられるとうれしいよね
それから印刷機能も良くなってほしい…

オープンWebプラットフォームが出版・印刷の世界を変える

W3C仕様の標準化とその実装が進むこと（Webブラウザも印刷用組版エンジンも）で世界が変わります！

おわりに〜参考資料